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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2909号・昭50年(ネ)2899号 判決

主文

1  昭和五〇年(ネ)第二八九九号事件のうち、第一審被告に対する控訴及び同年(ネ)第二九〇九号事件の控訴を却下する。

2  本件のその余の控訴を棄却する。

3  原判決主文第二項に「被告亡ムハメード・ガブドルハイ・クルバンガリー相続財産」とあるのを「第二八九九号事件控訴人ら」と更正する。

4  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  第二八九九号事件の控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人アパナイの請求を棄却する。

3  原判決別紙物件目録(二)記載の土地が控訴人らの共有(控訴人グルスムの持分三分の一、その余の控訴人らの持分各九分の二)に属することを確認する。

4  被控訴法人は、右土地につき、控訴人らに対し、相続を原因とし右持分による所有権移転登記手続をせよ。

二  第二九〇九号事件の控訴の趣旨

1  原判決中控訴人関係部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一審、第二審ともに被控訴人の負担とする。

三  各控訴の趣旨に対する答弁

1  被控訴人アパナイ(第二八九九、第二九〇九号事件)

各控訴棄却の判決を求める。

2  被控訴法人(第二八九九号事件)

控訴棄却の判決を求める。

第二  当事者の主張及び証拠

次のとおり附加訂正するほか原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

一  原判決七枚目裏一行目の「グルムス」を「グルスム」と訂正する。

二  原判決八枚目表四行目の「一月二三日」を「一月二三日生」に改める。

三  原判決九枚目表二行目の「ソビエト連邦共和国」を「ロシヤ・ソビエト連邦社会主義共和国(以下、「ロシヤ共和国」という。)」と、また「チヤリヤビンスカヤ市」を「チエリヤビンスク市」と訂正する。

四  原判決一一枚目裏四行目の「ペンザ」を「ヴアシキリア」と訂正する。

五  原判決一三枚目表一一行目の「原本の存在も」を「原本の存在及び成立を」と改める。

六  当審における第一審原告(アパナイ)の主張

1  亡ムハメードは、個人としてではなく、旧東京回教徒団体の代表者として、礼拝堂及び学校を建設するため、瀬下清らから金一一万円の寄付を受けたものである。仮に、右寄付が亡ムハメード個人になされたとしても、同人への帰属は信託的なものでしかない。

2  旧東京回教徒団体は、ロシヤ革命により亡命して来た東京在住のトルコ民族系回教徒(当時無国籍)により大正一四年頃結成されたもので、昭和九年初めごろ、アヤズ・イスハキを中心とするイデル・ウラール・トルコ・タタール・宗教文化協会(イスハキ派)が結成され、亡ムハメードを中心とする一派と対立するようになつたが、この内部対立は、亡ムハメードが昭和一三年五月一六日に国外追放となつてからは実質的に解消し、昭和二六年九月三〇日に右のイデル・ウラール・トルコ・タタール・宗教文化協会が正式に東京回教徒団体に復帰合併してからは形式的にも解消して、東京華山トルコ人民族宗教団体と改称し、更に、昭和二八年に構成員が全員トルコ国籍を取得したことを機縁として、東京トルコ協会と改称して現在に至つているのであるから、歴史的にみて旧東京回教徒団体と現在の東京トルコ協会との間には継続性及び同一性がある。

3  もつとも、甲第一六号証の二〇には、「東京回教団は解散し改めて東京地方在住回教徒を分子としイブラヒムを団長とする東京回教団は八日午後三時結成を見たり。」という記載があるが、新団長イブラヒムは、もともと東京回教徒団体の長老であつて、亡ムハメード逮捕後の団体にあつて中心となるべき者であり、また会員及び会則などについて何らの変更もなかつたことからみて、この文書は、派閥抗争を終結させた意味あいを持つているに過ぎず、団体の継続性及び同一性に何らの影響も与えない。同文書中の「解散」という記載は、亡ムハメードを追放した当時の当局者らが、両派対立の解消をことさら強調するためにした観念的、政治的な表現であつて、もとより団体の消滅を意味するものではない。

4  権利能力なき社団は、社団法人とその実体を同じくする団体であり、個々の構成員を超越した別個の単一体として理解されるものであるから、その属人法を考えるに当たつては、法人の属人法の決定基準に準じて判断すべきものである。もつとも、権利能力なき社団については設立準拠法がありえないから、商法第四百八十二条の規定を根拠として、その活動の本拠の所在地の法を属人法としなければならない。そして、既に述べたように、旧東京回教徒団体は東京において結成され、東京を礼拝その他の宗教活動、教育文化活動その他の事業活動の本拠とし、総会も東京で開かれ、昭和一二年以降渋谷区大山町にモスク及び回教学校を設置して活動の中心地としてきたから、その属人法が日本法であることはいうまでもない。船舶法第一条、外国人土地法第二条、外国人の財産取得に関する政令第二条などは、外国法人の一般的権利能力について定めたものではないから、権利能力なき社団について、その設立者又は構成員の国籍をもつて属人法決定の基準とするのは適当ではない。

5  仮に、グルスム、アサード、アニサ、ナジヤが亡ムハメードの相続人であるとしても、相続財産法人に相続財産管理人が選任されている場合において、相続人が判明し、その相続人が相続の承認をしたときは管理人の代理権は当然消滅し、相続人は訴訟手続を受継ぐことを要するものと解すべきところ、本件において右の四名は第一審において独立当事者参加をしており、その参加申立ての中に黙示的に訴訟受継の申立てが含まれていたものと解すべきであるから、その参加申立てを却下した原判決が誤りであつたと解する余地があるが、本件では、右四名は、原審において本件の実体上の争点である本件不動産の帰属について攻撃防禦を尽くしたのであるから、民事訴訟法第三百八十八条の問題は生じえない。

七  当審における第一審被告兼当事者参加人(グルスム)、第一審当事者参加人ら(アサード、アニサ、ナジヤ)及び第一審被告法人の主張

1  本件土地建物の所有権帰属は、本件寄付金が亡ムハメード個人に対してなされたか、旧東京回教徒団体に対してなされたかによつて定まるものと解すべきところ、醵金者らは、亡ムハメードのみと親しかつたことから、同人の思想、行動に共鳴し、それを具体化するための協力金として、亡ムハメードにより自由に使用されることを予想し、認識して本件寄付をする決意を有するに至つたものであるから、右寄付が亡ムハメード個人に対してなされたものであることは疑問の余地がない。仮に、亡ムハメードの背後に旧東京回教徒団体があり、本件寄付を受けるに際し右団体の存在や寄付金の使途についての説明があつたとしても、そのために被寄付者が亡ムハメード個人から旧東京回教徒団体に変る筈はない。また、当時の東京回教徒団体は、イスハキ派と亡ムハメード派との二派に分裂し、対立抗争している時代であつたから、そのような不安定な団体に対して多額の寄付がなされるとは考えられない。

2  第一審原告の主張する如く、旧東京回教徒団体がイスハキを中心とするイデル・ウラール・トルコ・タタール・宗教文化協会と亡ムハメードを支持するマハラ・イスラミヤとに分裂した訳ではない。東京回教徒団体とマハラ・イスラミヤとは同義であり、昭和八年イスハキが来日してマハラ・イスラミヤとは別個の団体である右協会を設立し、これにマハラ・イスラミヤの構成員の一部が脱退加入したものであるから、マハラ・イスラミヤが二つの団体に分裂したものとはいえない。(イスハキは、元来マハラ・イスラミヤの会員ではなかつた。)前記協会は、イスハキ離日後はほとんど活動を停止し、次第に団体としての機能を失つて自然消滅し、他方マハラ・イスラミヤは亡ムハメード離日後も活動を継続していたが、終戦後間もない頃(昭和二一年から同二二年頃)からその活動を停止した。そこで、昭和二八年に、無国籍であつた在東京並びに近郊の元マハラ・イスラミヤ会員全員及び元文化協会会員全員がトルコ国籍を取得するに当たり、トルコ人の民族、文化高揚並びに親睦を目的として東京トルコ協会が設立され、右全員がトルコ人の資格において加盟したものである。従つて、東京トルコ協会とマハラ・イスラミヤとの間には、何らの継続性、同一性もない。

3  旧東京回教徒団体規約によれば、右団体は、回教を信ずる成年者により構成される純然たる宗教団体であつて、その構成員の民族、国籍を問わない。他方、東京トルコ協会は、何よりも先ずトルコ人の団体であることを大前提とし、トルコ人の民族、文化の高揚及び親睦を図るため、その範囲内で民族、歴史、文化、宗教的活動をすることを目的とし、その構成員が回教徒である必要はない。従つて、旧東京回教徒団体と東京トルコ協会とは、全くその目的、構成を異にする別箇の団体であるといわなければならない。

4  法例第二十五条の規定によれば、「相続ハ被相続人ノ本国法ニ依ル」ものとされている。ところで、亡ムハメードは、昭和四七年八月二二日にロシヤ共和国チエリヤビンスク市において死亡し、その死亡証明書には「市民ムハメード・ガ・クルバンガリー」の記載があるから、同人は死亡当時にはロシヤ共和国の国籍を有していたものと認められる。また、一九六一年一二月八日にソ連邦最高ソビエトにおいて採択された「ソ連邦及び加盟共和国民事立法の基礎」(以下「基礎」という。)第一二七条第三項は「ソ連邦における建物の相続は、あらゆる場合において、ソビエトの法律によつて定められる。」と規定しているから、ソ連邦外にある不動産の相続問題については、その所在地法によることになる。かくて、反致が成立するから、本件土地建物の相続準拠法は日本法である。<以下、証拠関係省略>

理由

第一第一審原告(アパナイ)の請求について。

一次の各事実は、当事者間に争いがない。

1  本件土地は、もと山下亀三郎の所有であつた。

2  右土地については、昭和一二年八月六日東京区裁判所淀橋出張所受付第八五五〇号をもつて、亡ムハメードのために、同年同月同日売買を原因とする所有権移転登記がされている。

3  本件建物については、昭和二九年四月二一日東京法務局渋谷出張所受付第一〇八九一号をもつて、グルスムのため所有権保存登記がされている。

二本件土地建物の所有権の帰属について。

1  <証拠>を総合すれば、次のような事実が認められる。

(一) 昭和二年か三年頃に、亡ムハメードが中心となり、ソ連邦から日本に亡命中のトルコ系回教徒のうち在京の者が集まつて、東京回教徒団体(マハラ・イスラミヤ。以下「教徒団」という。)を結成した。

(二) 教徒団は、純然たる宗教団体であつて政治に関与せず(規約第二条)、祭礼、葬儀の執行、礼拝所及び墓地の管理等の宗教活動のほか、子弟の教育、団体員相互の親睦向上等を主な目的としていた。(規約第四条)

(三) 教徒団は、昭和五年に団体員や日本人協賛者の寄付と銀行からの借入れとによつて、豊多摩郡代々幡町大字代々木字富ケ谷一四六一番地の七号に一七九坪位の土地を取得して、その地上に木造二階建の回教学校校舎兼礼拝所を建築した。

(四) しかし、教徒団は法人格を有しないため、代表者ムハメードの名義で右土地建物について所有権移転登記及び保存登記手続をした。

(五) その後、元三菱銀行会長瀬下清ほか一〇名位の日本人が、教徒団の代表者で日本の政財界に知人が多く付き合いの広かつた亡ムハメードに対して寄付を申し出た。当時教徒団の活動が盛になるにつれて建物が狭過ぎて支障を来すようになり、独立の礼拝堂(モスク)もないので新たに学校校舎と礼拝堂とを建築する必要があつたけれども、教徒団の内部には、異教徒の寄付金で教会を建てることはできないという強硬な反対があつたので、結局亡ムハメードが個人で寄付を受けた上でそれを改めて同人が教徒団に寄付することになつた。

(六) かくて、教徒団は、前記の日本人らから得た一一万円位の寄付金で、昭和一二年八月六日に山下亀三郎から本件土地を買い入れ、直ちに同地上に建築に着工して昭和一三年三月に校舎(本件建物)を、同年五月に礼拝堂をそれぞれ完成した。

(七) 本件土地については、前記のとおり昭和一二年八月六日に亡ムハメード名義で所有権移転登記がされたが、本件建物については保存登記がされることもなく放置された。

2  原審証人三宅仙太郎、同椎名佐喜夫及びグルスム本人は、原審において、本件土地建物を取得するに当たり日本の財界人から受けた寄付金は、教徒団に対してなされたものではなく、亡ムハメード個人に対してなされたものであり、従つて右物件も同人の所有であつた旨供述しているが、前認定のごとく、亡ムハメード個人で寄付を受ける形式にしたのは全く宗教上の理由によるものであり、更に、<証拠>によれば本件建物の落成式が教徒団の行事として挙行されている事実に照らして、たやすく措信し難い。

3  もつとも、乙第一号証には、本件土地建物を寄付財産とする財団法人の設立手続を亡ムハメードが弁護士三宅仙太郎に委任する旨の記載があるが、この点はなんら前記認定に反しないばかりか、かえつて本件土地建物が亡ムハメードの固有財産でなかつたことを裏付けるものである。(原審証人テミンダル・モヒトの証言によれば、回教徒学校を財団法人にすることは、早くから団体員の間で話題になつていたことが認められるし、仮に亡ムハメードが本件土地建物の真の所有者であつたのならば、日本国外追放直前の同人としては自己の家族に名義変更することを三宅弁護士に依頼する方が自然であると考えられるから、乙第一号証は、本件土地建物が亡ムハメードの個人所有に属することを前提として作成されたとの原審証人三宅仙太郎の証言は、たやすく措信し難い。)

また、乙第三号証(建築物使用認可証)に亡ムハメードが本件建物の建築主として記載されていること、乙第一〇号証の一(亡ムハメードからグルスムにあてた手紙)の「教会、学校などは……私の財産となつています。」との記載、乙第一一号証(請負契約公正証書)の「亡ムハメードは、自己の所有すべき回教礼拝堂及附属校舎の新築方を合資会社師田組に注文した」との記載、乙第一二号証の一(建築申請)に本件建物の建築主が亡ムハメードと記載されていること、乙第一四号証(土地所有権移転登記申請)に本件土地の買主が亡ムハメードとされていること、乙第一五号証の一、二(昭和二七年度固定資産税徴税令書及び領収証書)が亡ムハメードあてに作成されていることなども、前記認定を覆すに足りない。

4  以上の次第であるから、本件土地建物は亡ムハメード名義で登記され或いは建築されているけれども、実際には教徒団の所有に属していたものと認めるのが相当である。

三教徒団と東京トルコ協会との継続性ないし同一性について。

1  <証拠>を総合すれば、次のような事実が認められ、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

(一) 昭和八年にアヤス・イスハキが来日してから後、教徒団は、イスハキを支持する一派と亡ムハメードを支持する一派との間で対立抗争が激化し、遂に前者を中心とするイデル・ウラル・トルコ・タタール文化協会と後者を中心とするマハラ・イスラミヤに分裂した。

(二) かくて、亡ムハメードの存在が帝国政府の回教徒政策の障害になるようになつたので、同人は、昭和一三年五月一二日に行われた礼拝堂落成式直前である五月五日にスパイの容疑で拘禁され、六月上旬に自由退去の形式で満洲国へ追放された。

(三) その後、次第に両派の対立も緩和して、昭和二六年九月には再び合併して東京華山トルコ人民族宗教団体となり、更に昭和二八年に東京トルコ協会(以下「協会」という。)と名称を改めて今日に至つている。

(四) 協会は、東京及びその近郊に居住する一八才以上のトルコ人を正会員とし、トルコ民族の歴史、文化、宗教、市民的存在の保持高揚を目的とし、その構成員は教徒団と殆んど同じである。

2  右認定の事実に徴すれば、教徒団と協会との間に事実上の継続性があることは疑問の余地がないから、更に両者が法律上の同一性を有するか否かについて検討することとする。

3 社団の国籍を決定する第一の規準は、その活動の本拠の所在地であり、第二の規準はその構成員である、従つて、先ず第一に外国にその活動の本拠を有する社団は外国の社団である。また、たとえ本邦にその活動の本拠を有する社団でも、その構成員の半数以上が外国人であるか(外国人土地法第二条参照)、或いはその代表者中に外国人がいる場合(船舶法第一条第四号参照)には、やはり外国の社団である。

(一) 前記認定の事実に徴すれば、教徒団はその活動の本拠を東京に有したけれども、ソ連邦から日本に亡命したトルコ系回教徒をその構成員としていたし、成立に争いがない甲第一八号証によれば、役員の全員がトルコ系回教徒であつたと認められるから、明らかに日本国籍の社団ではない。しかし、一九一七年一一月七日以後にソビエト当局の許可なしにソ連邦を去つた者は一九二一年一二月一五日法及び一九二四年の国籍法第十二条第一号の規定によりソ連邦の国籍を失うから、教徒団の構成員はいずれも無国籍者であり、教徒団は無国籍の社団になる。無国籍の社団については、その活動の本拠が所在する地の法をもつて属人法と看做さなければならない。(法例第二十七条二項参照。)従つて、教徒団は、日本法上の権利能力なき社団と看做される。

(二) 前認定の事実に徴すれば、協会は、東京及びその近郊に居住する一八才以上のトルコ人を正会員とするから、明らかにトルコ国籍の社団である。(トルコ民法第五十三条は、経済的目的を有しない社団であつても、団体を構成する多数人の意思が表明されているときは、法人格を取得することができるものとする。)

(三)  日本法上の権利能力なき社団と看做される教徒団とトルコ国籍の社団である協会とが法律上同一性を有するといいうるためには、日本法によつてもトルコ法によつてもその同一性が承認されなければならない。(一九五六年六月一日にハーグで締結された「外国の会社、社団及び財団の法人格の承認に関する条約」第三条第一項参照。)

(1) 日本法上、二つの社団が同一性を有するといいうるためには、構成員が同一であり、かつ、目的が同一でなければならないと解されるところ、教徒団と協会とはその構成員が殆んど同一であること及び教徒団の目的がトルコ系回教徒の宗教活動、子弟の教育、相互の親睦、相互扶助などにあり、他方、協会の目的はトルコ民族の歴史、文化、宗教、市民的存在の保持高揚にあり、その目的もほぼ同一であると認められることは前記認定のとおりであるから、教徒団と協会とは日本法上その同一性を承認しうると言つて良い。

(2) 次に、トルコ法上、二つの社団の同一性を認識する基準は明らかでないが、前掲トルコ民法第五十三条が「団体を構成する多数人の意思の表明」を社団が法人格を取得する要件としている点からみて、やはり構成員及び目的の同一をもつて同一性認識の規準としているものと解される。従つて、教徒団と協会とはトルコ法上もその同一性を承認されると思われる。

4  以上の次第であるから、教徒団と協会との間には継続性ないし同一性があり、協会は、本件土地建物について教徒団が有した所有権を承継したことになる。

5  もつとも、協会がトルコ法上権利能力を有するか否かは明らかでないが、外国法人は、国、国の行政区画及び商事会社を除くほか、その成立を認許されず(民法第三十六条第一項)、認許されない外国法人は権利能力がない社団、財団として取り扱われるのであり、他方、外国において権利能力がない社団、財団も本邦においてこれを権利能力がない社団、財団としてその活動を認めて差し支えないから(前記条約第六条第一項参照。)、いずれにしても、協会は、本邦において、権利能力なき社団として代表者である第一審原告(アパナイ)の名において訴えまた訴えられることができる訳である(昭和二七年八月二一日の大蔵省通商産業省告示第一号別表二二により、トルコ人は「外国人の財産取得に関する政令を適用しない外国人」に指定されているから、トルコ法上の社団である協会も本件土地建物の所有権を取得することができる訳である。)

四よつて、第一審原告の第一審被告ら(グルスム及び法人)に対する本訴請求は理由がある。

第二第一審当事者参加人ら(グルスム、アサード、アニサ、ナジヤ)の請求について

一<証拠>によれば、亡ムハメードは、昭和四七年八月二二日にロシヤ共和国チエリヤビンスク市において死亡したものと認められる。(この事実は、参加人らと被告法人との間では争いがない。)

二亡ムハメードの相続人の存否が不明であるとして、昭和四八年六月二〇日に、東京家庭裁判所において大輪威がその相続財産管理人に選任されたことは、各当事者間に争いがない。

三第一審原告は、仮に参加人らが亡ムハメードの相続人であるとしても、相続財産管理人が選任されている限り、参加する適格も利益も有しないと主張する。しかし、相続準拠法が外国法である場合には、相続開始後の保全措置について本邦の裁判所に認められる管轄権は、当該の財産が本邦に所在することを理由とする例外的なものに過ぎない。また、右保全措置の一環として任命された相続財産管理人は、手続形態の代替可能性の原則に従い、相続準拠法上の相続財産管理人であるから、その権限も相続準拠法によつて定まる。従つて、参加人らが参加の適格ないし利益を有するか否かを判断するためには、単に相続財産管理人の選任の取消(選任の審判の取消ではない。)の有無を審査するだけでは足りず、右参加請求について本邦の裁判所が管轄権を有するか否か、及び相続準拠法上相続財産管理人の存在が相続人(と主張する者)の権利行使の障害とならないかどうかを審理しなければならない。

四相続権に関する訴訟については、被相続人が最後に常居所を有した国の裁判所に原則的管轄権がある。(民事訴訟法第十九条参照)前掲乙第三〇号証によれば、亡ムハメードの最後の常居所地はロシア共和国チエリヤビンスク市であつたと認められるから、本邦の裁判所に原則的管轄権はない。次に、たとえ被相続人が本邦に最後の常居所を有しなかつた場合にも、本邦に所在する相続財産に関する事件については、本邦の裁判所に例外的管轄権がある。(民事訴訟法第八条参照。)従つて、本件参加請求については、本邦の裁判所に例外的管轄権がある。

五相続準拠法の確定及びその適用

1  法例第二十五条の規定によれば、相続準拠法は「被相続人の死亡当時の本国法」であるところ、前掲乙第三〇号証によれば亡ムハメードは死亡当時ロシヤ共和国の市民であつたと認められるから、その本国はソ連邦であり、その準国際私法によりいずれの共和国の法律によるかを定めることになる。

2  ソ連邦においていかなる準国際私法が行われているかは明らかでない。しかし、既に認定した如く、亡ムハメードがロシヤ共和国の市民であつたこと及びその最後の常居所地であるチエリヤビンスクがロシヤ共和国にあることを考慮すれば、亡ムハメードの属人法はロシヤ共和国法であると考えられる。従つて、相続準拠法は、一九六四年六月一一日にロシヤ共和国最高ソビエトにおいて採択され、同年一〇月一日から施行されたロシヤ共和国民法典(以下「ロシヤ民法」という。)になる。

3  基礎第百二十七条第三項は、ソ連邦に所在する建物の相続についてはソビエト法が適用されるものとしており、この規定は相続分割主義を採用したものと認められる。従つて、本件土地建物の相続については日本法に反致されるが(法例第二十九条)、ソビエト国際私法は一般に反致を認めるので二重反致が成立し、結局、相続準拠法はロシヤ共和国民法になる。

4  ロシヤ民法第五百三十二条の規定によれば、被相続人の配偶者及び子が第一順位の法定相続人とされている。

(一) そこで、グルスムについては、亡ムハメードとの間の「婚姻の成立」が「相続」の先決問題になる。先決問題の準拠法は、本問題の準拠法の所属国の国際私法により定められる。一九六九年七月三〇日にロシヤ共和国最高ソビエトで採択され同年一一月一日から施行されたロシヤ共和国婚姻・家族法典(以下「ロシヤ家族法」という。)第百六十二条第三項、第四項の規定によれば、婚姻成立の要件は婚姻挙行地法によるものとされている。ところで、<証拠>を総合すれば、亡ムハメードとグルスムが大正一五年六月三日に奉天においてイスラム法の方式で婚姻したことが認められ、民国七年(大正七年)八月六日に施行された中華民国法律適用条例第二十六条第一項但書は、行為の効力を規定した法律の定める方式によることができるものとし、同条例は第十条第一項で婚姻の効力は夫の本国法によるものとしているから、結局亡ムハメードの本国の宗教上の儀式に従つた前記婚姻は有効に成立したことになる。従つて、グルスムは、亡ムハメードの配偶者として相続権を有することになる。

(二) ナジヤ、アニサ、アサードについては、亡ムハメードとの間の「嫡出親子関係の成立」が「相続」の先決問題になる。この場合、先決問題の準拠法を指定すべき本問題の準拠法所属国(ロシヤ共和国)の国際私法が、「嫡出親子関係の成立」についてどのような立場をとつているかは必ずしも明らかでない。(外国人及び無国籍者に対するロシヤ家族法の適用について定めた同法第五編には、この点に関する規定が見当たらない。)しかし、ロシヤ家族法第百六十条第二項は、子の国籍取得について血統主義をとりながら、父系の優先を認めず、父母の血統に同等の価値を認めているから、嫡出親子関係の成立についても母の夫の属人法又は母の属人法のいずれか一つだけを準拠法に指定しているとは考えられないし、また、子が母の夫の嫡出子とみられるべきか否かは母の夫の属人法により、母の嫡出子とみられるべきか否かは母の属人法によるものとする立場(一九五二年の移民及び国籍法第三百一条(a)項(7)号により、子の国籍取得について父母の血統に同等の価値を認めるアメリカ合衆国がこの立場をとる。)は、子の身分が母の夫と母との関係で別箇に定められることになり家族の統一という見地からみて望ましいものとはいえない。そこで、結局、本件における「嫡出親子関係の成立」については、子の属人法によるのが適当である。もつとも、<証拠>を総合すればナジヤ、アニサ、アサードはいずれも出生の時には無国籍でその後トルコ国籍を取得したものと認められるので、そのいずれによるかを決しなければならない 元来、親子関係成立の基礎となる事実は出生であるから、その準拠法を決定する時点は出生の時であるべきであろう。しかし、出生時に無国籍であつた子が、その後に或る国の国籍を取得したときには、寧ろその国の法律を準拠法にした方が子の利益になると考えられる。そして、このような考え方がロシヤ共和国の国際私法の基本原理に抵触するとは考えられないので、本件における「嫡出親子関係の成立」の準拠法はトルコ法と解するのが相当である。そして、トルコ民法第二十四条以下の規定によれば、婚姻中に出生した子については、母の夫が父とされており、<証拠>を総合すれば、ナジヤ、アニサ、アサードはいずれも亡ムハメードとグルスムとの婚姻中にグルスムを母として出生したものと認められるから、亡ムハメードとの間に父子関係があることになる。従つて、ナジヤ、アニサ、アサードは、亡ムハメードの子として相続権を有することになる。

(三)  原判決は、参加人らと亡ムハメードとの身分関係を確認するのに最も重要な証拠となる戸籍関係書類がないことを参加請求を排斥する根拠の一つにあげている。しかし、現在一般に承認されている国際私法上の原則によれば、身分関係の立証に身分証書以外の立証を許すか否かの問題は、婚姻の成立についても、嫡出親子関係の成立についても、当該の法律関係の準拠法により決せられる。ところで、昭和初期の奉天省においては、婚書又は庚帖の作成を婚姻の成立要件としない地方もあつたから、婚姻の成立を立証するについて身分証書以外の立証を許したものと認められる。また、嫡出親子関係の成立について、トルコ法がどのような証明方法を要求しているかは明らかでないが、身分証書の原簿が存在せず或いは失われた場合に、他の方法による証明を許さないとは考えられない(フランス民法第四十六条参照。なお、トルコはフランスと共に国際戸籍委員会(C・I・E・C)に加盟しているから、フランス法と同一の原則によつているものと思われる。)。従つて、亡ムハメードと参加人らとの身分関係が身分証書によつて証明されないからといつて、参加請求を排斥する根拠にはなりえない。

5  本件土地建物が相続財産を構成するか否かは相続準拠法によつて定まり、右土地建物が相続の客体となりうるか否かは所在地法によるから、本件土地建物が相続人である参加人らによつて承継されるためには、その所在地法である日本法がその被相続性を肯定し、更に、相続準拠法が本件土地建物の相続財産への帰属を容認しなければならない。

(一) 本件土地建物は、勿論、日本法上相続の対象となりうる。

(二) ロシヤ民法第百五条第二項は、住居の個人所有を認めており、同法第五百三十八条第二項の規定は住居が相続の対象となりうることを当然の前提としているから、ロシヤ民法は本件建物の相続財産への帰属を認める。

(三)  ロシヤ民法第九十五条第二項は、土地が私的所有の客体となることを認めないから、この規定が相続能力に関する規定であれば、ロシヤ法上相続人となる者は、外国所在の土地を相続することができないことになる。これは、いわゆる法律関係の性質決定の問題であるが、ロシヤ民法前文に明らかなとおり生産手段の国家的所有がソビエト体制の基礎であること及びロシヤ民法第九十五条第二項が土地を国家の絶対的所有としていることに照して、前記の規定はロシヤ共和国に所在する不動産の性質に関する規定であつて、ロシヤ共和国所在の土地が相続されえないことを定めたに過ぎないものと解するのが相当である。従つて、本邦に所在する本件土地については、ロシヤ法上も相続財産を構成しうることになる。

6  相続人が不存在であるか否かは、相続準拠法であるロシヤ民法によるべきところ、同法第五百五十六条の規定によれば、相続財産の中に住宅その他管理を必要とする財産があり、相続人が相続を承認する以前に被相続人の債権者によつて訴が提起された場合には、公証事務所(公証事務所のない地方では、勤労者代議員地方ソビエト執行委員会)が財産の保管者を任命することとされているから、東京家庭裁判所が昭和四八年六月二〇日に選任した相続財産管理人大輪威は、前記の規定による財産保管者としての権限を有することになる。ところで、ロシヤ民法第五百五十五条第二項によれば、相続財産保護の措置はすべての相続人による相続の承認まで継続するものとされているから、前記相続財産管理人の権限も相続人である参加人ら全員が相続を承認したときに消滅するわけである。他方、ロシヤ民法第五百四十六条第二項の規定によれば、相続人が相続開始地の公証機関に相続承認についての申立てをしたときに相続を承認したものとされているから、参加人らが相続財産である本件土地建物の所在地を管轄する東京地方裁判所に当事者参加の申出をした昭和四八年一一月二七日に相続承認の申立てをしたものと解すべきであり、従つて、前記相続管理人の権限もこの日以後消滅したものというべきである。もつとも、ロシヤ民法第五百四十六条第三項によれば、相続の承認は相続が開始した日から六箇月以内に行わなければならないものとされているので、亡ムハメードが死亡した昭和四七年八月二二日から六箇月を経過した後になされた本件参加申出を相続承認の申立てとみることには問題がないわけではない。しかし、ロシヤ民法第五百四十七条第一項前段は、相続承認期間は、裁判所が期間徒過についてもつともな理由があると認めたときには延長されうるものとしており、本件の場合のように、相続開始地がロシア共和国チエリヤビンスク市であり、相続人全員が同国外に居住しているときには、期間徒過についてもつともな理由があると認められる。従つて、期間徒過後一年以内にされた本件参加申出は有効な相続承認の申立てである。(ロシヤ民法第五百四十七条第一項後段は、他のすべての相続人の同意があれば、期間後の相続承認の申立ても有効であるとしているから、この点からも右の結論を肯認しうる。)

7  以上の次第であるから、参加人らの本件参加申出によつて、被告法人は存在しなかつたものとみなされ、前記相続財産理管人の権限は消滅し、参加人らが本件訴訟を当然に承継することになる。(民事訴訟法第二百十一条参照)それ故、本件参加申出は受継申立と善解して受理すべきものであり、右受継により、参加人らは被告法人の地位を承継するとともに、第一審原告に対する本件土地の共有権確認を求める請求は、反訴と理解すべきこととなる。従つて、被告法人の本件控訴及び参加人らの被告法人に対する控訴はいずれも訴訟の主体を欠き不適法であるから却下すべきものであり、参加人らの第一審原告に対する請求については反訴としてその当否につき判断の必要がある。(参加人らは、既に原審において本件土地の所有権の帰属について弁論を尽くし、原判決も(予備的ではあるが)これにつき判断を加えているのであるから、当審において実体判断をしても、いわゆる審級の利益を奪うことにはならないので、この請求部分につき原審に差し戻すことなく、みずから判断を示すのが相当である。)

六そして、本件土地建物が協会の所有に属し、亡ムハメードの相続財産を構成するものでないことは既に認定した通りである。従つて、本件建物について第一審被告グルスムに対して、また、本件土地について第一審被告法人を承継した参加人らに対して、それぞれ所有権移転登記手続を求める第一審原告の本訴請求は理由があり、これを認容した原判決主文第一、二項部分は(同第二項につき、主文のとおり更正すべきものであるが)結局正当であるから、この部分に対する控訴を棄却すべく、また、第一審原告に対して本件土地が参加人らの共有に属することの確認を求める参加人らの請求は理由がないが、原判決はこの部分に関する参加申立を不適法として、実体判決をしていないので、当審においても単に参加人らの控訴を棄却すべきものである。

第三結論

よつて、第二八九九号事件のうち被告法人に対する控訴及び第二九〇九号事件の控訴を却下し、その余の控訴を棄却することとし、第二八九九号事件控訴人らが第二九〇九号事件控訴人を承継したことにより、原判決主文第二項を主文のごとく更正し、控訴費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文の規定を適用して主文のとおり判決する。

(杉山克彦 横山長 三井哲夫)

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